自己破壊芸術展 / An Exhibition of Auto-Destructive Art

この度、NEORT++はグループ展「自己破壊芸術展」を開催いたします。
ステートメント
創造というプロセスはしばしば、新しさを生み出すこと、形を与えること、存在を増やすこととして語られてきました。反対に破壊は、生産の逆、価値の減少、損失として位置づけられます。そこでは創造は肯定的な力であり、破壊は否定的な作用として理解されます。しかし、生物や生態系のプロセスには、死や破壊がシステム全体を成立させる不可欠な要素として組み込まれています。芸術においてもまた、破壊は既存の形式や価値を解体し、新たな表現を生み出す契機となってきました。この視点に立てば、創造と破壊は単純な対立項ではなく、互いに絡み合いながら進行するひとつの時間的なプロセスとして捉えることができます。
「自己破壊芸術展」は、破壊を否定的な終焉ではなく、創造と等価なプロセスとして捉え直す展覧会です。作品が自ら崩壊する瞬間、物質は保存される対象ではなく、変化し続ける出来事として現れます。作品は完成へと向かうのではなく、不可逆に変質し、異なる状態へと移行し続けます。その意味で本展は、作品を静的な完成物としてではなく、時間と変化を内包する「場」として提示する試みでもあります。
本展の背景にあるのが、グスタフ・メッツガーが1959年に提唱した「自己破壊芸術(Auto-Destructive Art)」です。ナチス・ドイツの迫害を逃れてイギリスへ渡ったメッツガーは、戦後社会における核兵器や大量生産、資本主義と技術の発展がもたらす破壊的な力に向き合い、作品そのものが時間とともに消滅していく芸術を構想しました。そこでは破壊は作品の外から偶発的に訪れるものではありません。腐食や解体、消失といった変化が作品の構造そのものにあらかじめ組み込まれ、その進行こそが作品となります。メッツガーにとって自己破壊は、社会が内包する「自己破壊的傾向」を芸術の内部で作動させることで、その構造を露呈させるための方法でもありました。
本展は、この自己破壊芸術の考え方を、現代の分散型計算環境において捉え直そうとするものです。ブロックチェーン上では、作品は固定された物体として存在するだけではなく、コードとして実行され、トランザクションとして記録され、状態を変化させながら存続することができます。ある操作を一度実行すれば元の状態へ戻せないことや、時間の経過とともに条件が変化すること、さらにはプログラム自身に消失や変質の条件を組み込むことも可能です。つまり、メッツガーが物質に対して導入した「自ら変化し、最終的には失われていく作品」という構造を、計算そのものの性質として実装することができます。
本展では、こうした分散型計算環境の条件を単なる技術的背景として扱うのではなく、芸術の形式そのものを再考する契機として位置づけます。物質的な永続性に依存しない構造、不可逆な時間の蓄積、実行され続けるプロセスとしての作品。そして、作品自身の内部に組み込まれた変化や消失の条件。メッツガーが半世紀以上前に提示した自己破壊芸術を出発点として、創造と破壊が計算環境のなかでどのように結びつき、新たな芸術の形式を生み出しうるのか。参加作家それぞれの実践を通して、その可能性を探求します。
Artists

荒川零一 | Zeroichi Arakawa
コード詩人、スマートコントラクトエンジニア。
プログラムのコードに文学的・構造的な美しさを見出し、コードという媒体が生み出す価値をテーマに探索と実験を続けている。代表作に、自らの内部状態をテストフレームワークで探求する《DeepSea》、ブラウザという実行環境に潜む詩的空間を掘り起こす《inside window》など。いずれもコードそのものを読み解くことの重要性と、その実行が生み出す詩的体験を提示している。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)博士後期課程在籍。
exonemo
千房けん輔と赤岩やえにより1996年に結成されたアーティスト・デュオ。インターネット黎明期から活動を展開し、現在はニューヨークを拠点とする。デジタルとアナログ、物理空間と情報空間という二つの領域を横断し、ネットワーク社会がもたらす変容を、鋭い批評性とユーモアを交えて表現し続けている。
アルス・エレクトロニカ「ゴールデン・ニカ」(2006年)、文化庁芸術選奨(2021年)など受賞多数。ホイットニー美術館でのオンラインプロジェクト(2019年)や東京都写真美術館での個展(2020年)といった主要美術館での発表に加え、インターネットカルチャーを物理的な体験へと翻訳し、世界30都市以上に波及した実験的なイベント「インターネットヤミ市」の主催など、既存のアートの枠組みを拡張する活動でも知られる。

久保田 晃弘 | Akihiro Kubota
『消えゆくコンピュータ』(岩波書店/1999)『遥かなる他者のためのデザイン』(BNN/2017)『メディアアート原論』(畠中実との共編著/フィルムアート/2018)『Quantum Computer Art Studies』(2025)『Random Rain 2025』(荒川零一との共作/2025)『ここでもなく、いまでもない』『人工美学』(BNN/監修/2026) など。第66回芸術選奨文部科学大臣賞(メディア芸術部門)。多摩美術大学名誉教授。https://hemokosa.com

0xDEAFBEEF
0xDEAFBEEFは、カナダ・トロントを拠点とするアーティスト兼エンジニアです。過去20年にわたり、音楽、録音、コンピューターアニメーション、鍛冶、ジェネラティブアートなど、芸術とテクノロジーが交わる多様な分野で試行錯誤を重ねてきました。
トロント大学で電気工学の学士号(BASc)と修士号(MSc)を取得し、在学中にはコンピューターアニメーション分野で国際的に評価された研究に貢献しました。
クラシック音楽の訓練を受け、音響技術にも精通する彼は、そうした関心を独自の制作活動に結びつけています。低水準のコンピューターコードと最小限のツールを使い、生の情報から視聴覚作品を生み出しています。近年のジェネラティブ作品では、プログラム可能なブロックチェーン技術が表現にもたらす可能性を探っています。

0xfff
0xFFF is a pseudonymous artist working with computation as material. Their work has been shown at Rhizome World and Basel Social Club, and they curated World Computer Sculpture Garden, an exhibition of programs that was itself a program. They make long-running works that execute autonomously — treating computation not as a tool but as the thing itself.

Toshi
ブロックチェーン技術の誕生以降、スマートコントラクトやその規格、または組織のあり方などを扱った作品を制作。NFTとして表示されるための最小限の条件だけを満たした契約 "The Ten Thousand" (2022)、誰でも転送可能なトークン "OpenTransfer" (2022)、ENSのサブネームを連結して一本の列車に仕立てる "PlayTrain" (2023–24)などがある。規格へのごく小さな介入によって、デジタルな所有とアイデンティティが何に支えられているかを問い続けてきた。

Jonah Brucker-Cohen
ジョナ・ブルッカー=コーエンは、アーティスト、ライターであり、ニューヨーク市立大学リーマン・カレッジの准教授です。トリニティ・カレッジ・ダブリンで博士号を取得しました。作品は、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)、カナダ現代美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ZKM、ロンドン現代芸術協会(ICA)、ホイットニー美術館、パレ・ド・トーキョー、テート・モダン、アルス・エレクトロニカ、トランスメディアーレなどで展示されています。文章は『WIRED』や『Make』などに掲載され、主催する「Scrapyard Challenge」ワークショップは、5大陸15か国以上で開催されています。