Spectacle of Surveillance

「Spectacle of Surveillance」は、監視をテーマとして扱ったメディアアート展です。
多くの日本人にとって、監視はまだなじみのない概念に思えるかもしれません。しかし、私たちの周りにはすでに多様な監視の形が存在しています。インターネットやSNSを通じて、私たちの属性情報や行動データは絶えず収集され、ターゲティング広告の表示などに利用されています。街中や商業施設、公共交通施設などには、防犯や安全を名目として多数の監視カメラが設置されています。パンデミック時には「自粛警察」と呼ばれる言葉が生まれるほど、市民による相互監視の動きが強まりました。最近では渋谷に100台のAIカメラを設置し、属性情報(性別・年代)の解析と利用者ごとの移動方向の解析、滞在時間の計測を行い、そのデータを商業施設などで事業利用するという施策が反響を呼びました。中国ではAIカメラによる画像認識と個人の信用スコアの連携がされていますが、それに近い仕組みが今後日本で導入されないとも限りません。
このような監視が日常に浸透し続けている理由は、政府や行政などの権力やビジネスにとっての利便性が大きいからです。監視技術はそのような権力と結びつくことで、私たちのアイデンティティや自由が制限される恐れがあります。しかし、私は監視に使われている技術そのものには大きな革新性と魅力があると考えており、監視を否定するためだけに、そこで使われている監視技術まで否定することには疑問を覚えています。
監視技術の進化は、私たちのアイデンティティと存在の仕方に大きな変化をもたらしています。その顕著な例の一つが、障害、ジェンダー、物理的なアイデンティティの制約を超える能力です。
例えば、音声認識技術と顔認識技術の組み合わせにより、聴覚や発声に障害を持つ人々が、他者とコミュニケーションを取る方法が大きく変わりました。彼らは、音声合成や手話の代わりとなるテキストメッセージを使用して、自分の思考を伝えることができるようになります。また、顔認識技術は、人々の物理的な特徴に依存しない新しい方法で、個人を認識することを可能にし、ジェンダーの概念を超えるアイデンティティ表現を提供しています。このように、監視技術は私たちを物理的な制約から解放し、自分自身を再定義する機会を提供します。
私は、監視技術によって身体から自由になることで、情報としての自分が時空を超えてさまざまな場所に遍在することができ、さらにその遍在する複数の自分が何らかのキーによって結びつくという状態に対して、便利である以上にワクワクする感覚を覚えます。
監視に使われる技術を、政府や行政などの権力やビジネスのものにせず、ワクワクするもののままで保つためには、技術に自分たち自身で触れ、それを理解し、考えることが必要だと思っています。この展覧会がその一助になれば幸いです。
Artist
ISHIKAWA Tatsuya
石川 達哉 ISHIKAWA Tatsuya
1991年 青森県弘前市生まれ
2014年 筑波大学 情報学群 卒業
2016年 東京芸術大学 大学院映像研究科 メディア映像専攻 修了
新しいテクノロジーは人々の意思とは関係なく次々と発見される。それは人間が知的好奇心を持つ限り止めることはできない。
テクノロジーそのものに意思はないが、それが権力と結びついたとき、人々は自由を得るよりはむしろ自由を奪われる傾向が強い。
テクノロジーによる支配から自由になるためには、まずその仕組みについて理解することが必要だ。
そんなパンク的な精神とテクノロジーへの知見をもとにして、社会実装されたテクノロジーやシステムの裏側を曝くための制作をおこなっている。
Events
- ended2024.2.9 09:00 _ 2024.2.9 12:00
"Spectacle of Surveillance" Opening Reception
ISHIKAWA Tatsuyaの個展 "Spectacle of Surveillance"のオープニングレセプションを開催します。 予約不要でどなたでもお越しいただけます。 東京都中央区日本橋馬喰町2-2-14 maruka 3F