スクリーンの肉

この度、NEORT++は大原崇嘉の個展「スクリーンの肉」を開催いたします。
ステートメント
近年、映像メディアは解像度やフレームレートの向上によって、その媒介としての透明性を高めてきた。他方、ポータブル・デバイスの普及や触覚的インターフェースの常態化は、スクリーンを前景化し、映像を触れうる可能性を帯びた界面として経験させている。
この二つの傾向は、美術史家 アロイス・リーグル が区別した「光学的(optisch)」と「触覚的(haptisch)」という視覚のモードに通じる。前者が距離を保ち奥行きのなかに対象を捉えようとするのに対し、後者は距離を圧縮し、表面へと近接する。しかし今日のメディア環境では、両者は排他的に切り替わるのではなく、むしろ遠近法的な深さと界面的な浅さは、同一の経験のうちで同時に強調され、重なり合っているように感じる。
この状況のもとで、映像は主客の枠組みを越え、身体性や運動を含み込む出来事へと変わりつつある。この変容を考えるうえで、モーリス・メルロ=ポンティ の現象学は示唆的である。身体は世界を受け取る装置ではなく、関係のなかで意味を生成する「生きられた身体」である。
本展では、ディスプレイそのものが運動する状況をつくり出す。その状況のなかで鑑賞者は、それを目で追い、焦点を合わせ、周囲を移動しながら関わる。深さと浅さが交錯する場において、映像は身体と世界のあいだに生じる関係として立ち現れ、見ることの輪郭をゆるやかに揺り動かす。
助成:公益財団法人 花王 芸術・科学財団
Artworks

Orb / Rot
作品を見るワイヤーロープで吊るされたディスプレイは、ねじり振り子の原理により往復する回転運動を続けている。画面には、静止した石の周囲を回転しながら撮影された映像が表示される。回転するディスプレイと、映像を撮影したカメラは互いに異なる周期をもち、その関係は同期と非同期を繰り返す。
そのなかで、映像には石の周囲を回転する運動と、石そのものが回転しているように見える運動という二つの現れが生じる。 両者を通して、映像は、他視点への同一化を前提としてきた光学的/遠隔的な視覚体験と、観者との身体的関与を通して現前する触覚的/近接的な視覚体験とのあいだを移ろう。
Suspensions
作品を見る石、カメラ、ディスプレイが直線上に吊り下げられている。カメラとディスプレイはそれぞれ異なる位相の振り子運動を行いながら、石をリアルタイムで撮影・表示する。
静止している石は、その連動のなかで、像として絶えず変動する。ここで生じているのは対象の運動ではなく、装置間の位相差が可視化する関係的な揺らぎである。
カメラへの同一化が「目」としての主体を映像の内部へと導くのに対し、スクリーンの運動はそれを重力に従う身体として現実空間へと引き戻す。
カメラとスクリーンの非同期な運動が生み出すずれは、その往復のなかで、見ることの枠組みそのものをゆるやかに宙吊りにする。
Artist

大原崇嘉 | Takayoshi Ohara
1986年神奈川県生まれ。東京を拠点に活動するアーティスト、プログラマー。主に映像や照明などを用いたインスタレーションを制作。色彩の相互作用や奥行き認知に関する研究などを横断的に取り入れながら、イメージ/モノ、平面/奥行き、視覚/身体のあいだに立ち上がる両義性そのものを前景化する。近代以降に形成されてきた視覚の枠組みに現代的な技術から応答し、今日のメディア環境における視覚の在り方を問い直している。アーティストコレクティブ「ヨフ」のメンバーとしても活動。第67回カンヌ国際映画祭〈短編コンペティション部門〉ノミネート、第24回文化庁メディア芸術祭〈アート部門〉審査委員会推薦作品など。
Events
- ended2026.3.13 09:00 _ 2026.3.13 12:00
"スクリーンの肉" オープニングレセプション
「スクリーンの肉」のオープニングレセプションを開催します。 予約不要でどなたでもお越しいただけます。 東京都中央区日本橋馬喰町2-2-14 maruka 3FOn Site



