Passing

この度、NEORT++は古澤龍の個展「Passing」を開催いたします。
ステートメント
本展では、古澤龍による新作《Passing》を展示する。列車の車窓から撮影された映像に独自のデジタル処理を施し、「通過」という時間経験そのものを変容させる作品である。列車の窓から風景を眺めるとき、私たちは流れる風景から、自然と奥行きを知覚する。近くの電柱や建物は速く流れ、遠くの山並みはほとんど動かない。この速度の勾配が、奥行きを知覚させている。しかしこの仕組みは、観察者と対象が同じ三次元空間を共有し、時間が一方向に流れるという前提のもとで成立している。この前提条件が崩れたとき、観察点と対象の関係、距離、速度、時間の知覚はどこへ流れつくのだろうか?
本作でのデジタル処理は、映像を写真の連続体として厚みを持たせることから始まる。各フレームを時間軸に沿って奥行き方向へ積層し、仮想的な三次元ボリュームを生成する。通常の再生はこのボリュームから断面を直線的に取得するプロセスだが、本作ではその断面角度を自由に回転させる。一枚のフレーム内で成立していた時間の同時性が崩れ、消失点へと収束する遠近法的空間は、水平線を媒介に、消失点のない平行投影へと漸次変容する。空間と時間の秩序が、静かに解体される。
作品制作協力:ソニー株式会社
助成: 公益財団法人 花王芸術・科学財団、映像作家100人 CREATOR GRANT、一般社団法人 MAM
共催: NEORT株式会社
主催: 古澤龍展覧会実行委員会
コメント
美術史家のエルヴィン・パノフスキーは、ルネサンス期に確立された「透視図法」がつくりだす純粋に数学的な空間、無限に続く均質的な空間は、人間が精神生理学的に知覚している空間とは異なる秩序を有し、空間を合理的に体系化するためのある種のイデオロギーが作用していると看破する。また、映像における「装置理論」を牽引したジャン゠ルイ・ボードリーは、カメラアイと鑑賞者の同一化を前提とする映像もまた、「透視図法」と類似のイデオロギーを有すると説いた。
古澤龍の新作《Passing》はまるで、そうした映像という媒体──あるいは、もはや「映像的」な枠組みによって立つことなしに視覚経験を体系化できなくなりつつある現代人を支配する透明化された「視のイデオロギー」への介入を試みているようだ。
古澤は、これまでおもに「メディアアート」のアングルから評価されてきたが、その作品はつねに「ドキュメンタリー」や「アニメーション」といった隣接領域にも一石を投じるものであった。本作もまた、映像の本質に迫る仕事といえよう。── 田中大裕
映像を三次元空間に構成し、その中を二次元スクリーンが動き回ることで新たな映像を生み出す──古澤さん独自のレンダリングシステムは、まるで新しいカメラのようだと感じました。撮影された映像をさらに撮影しているような重層的な印象を受け、そうした道具そのものから発明する古澤さんの制作姿勢にとても共感し、感銘を受けました。
制作手法や視覚表現の観点から、映像でありながらとても絵画的な作品だという印象を受けましたが、西洋絵画を学んできた古澤さんの背景を知ると、それもまた必然の表現だと腑に落ちました。
展示は、時間軸を持つ映像というメディアについて改めて深く考える機会になりそうで、とても楽しみにしています。── NIINOMI
列車の窓は、動くフレームである。その内側では、近景が激しく流れ去り、遠景はほとんど静止している。私たちはこの速度の差異を、無意識のうちに奥行きとして読み替えている。つまり、車窓の風景においては、速度がそのまま距離になる。古澤龍の《Passing》は、この構造を解きほぐす作品である。時間の断面に角度を与えることで、時間と空間の関係は揺らぎ、複数の時間が空間の中に共存し始める。風景は、過ぎゆく時間の厚みとして眼の前に現れる。通過する風景はもはや過ぎ去らない。時間の中で折り畳まれ、重なり合い、持続へと変化する。── 庄野祐輔
Artworks

Passing
作品を見る2025年3月27日、多摩モノレールの車窓から立川―多摩センター間の風景を高解像度ハイスピードカメラで記録した。本作は、この一つの映像を素材に、デジタル座標変換によって映像内の時間と空間の構造を書き換え、「通過」という時間的・空間的経験そのものを変容させる。
タイミングやパラメーターを変えながら変換出力された映像群は観者の画面を「見る/見ない」という振る舞いに応じて道筋を変えながら、シームレスに再生を続ける。音響はこのノンリニアな生成に応答するかたちで、AIモデルを通してリアルタイムに生成される。
風景は矛盾を伴いながらも、左から右へ、永遠と流れ続ける。やがて、見る人の知覚へ作用し、距離、速度、時間の関係は、緩やかにほどけていく。
Artist

古澤龍 | Ryu Furusawa
東京・千葉を拠点とするアーティスト。メディウムや鑑賞環境そのものの条件を操作することで、主観と客観の境界が揺らぐ曖昧な状態を画面に生成することを試みている。近年は、動画記録とデジタル座標変換を組み合わせ、映像に刻まれた時間・空間の書き換えを探究している。視覚メディアの制度や慣習によって前提化されてきた時間・空間の認識に対して、映像の時間経験を模倣する特性と、その構造への介入を通して、オルタナティブな捉え方を実践的に探り続けている。
受賞歴に、Prix Ars Electronica 2024 Honorary Mention、第25回 文化庁メディア芸術祭アート部門 審査員推薦作品。近年の展示に、「mission ∞ infinity | space + quantum + art」(東京都現代美術館、2026)、「Rear Window & Real Wonder」(HOW Art Museum、上海、2025)、「ICC Annual 2024」(NTT InterCommunication Center、東京、2024)など。また、アーティストコレクティブ「ヨフ」としても活動している。
Events
- ended2026.4.17 09:00 _ 2026.4.17 12:00
"Passing" オープニングレセプション
「Passing」のオープニングレセプションを開催します。 予約不要でどなたでもお越しいただけます。 東京都中央区日本橋馬喰町2-2-14 maruka 3FOn Site




