ME; me

李はこれまで執着といってもよい関心によって、「目」「他人の視線」といった要素を追求してきました。彼女によれば、こうした「外見至上主義」は、もはや私たちの社会——高度に発達した資本主義における相互監視——やいたるところでのコミュニケーションにまで食い込んでいるといいます。
本作の制作にあたっては、女性における「美」の要素を美学的分析、社会学的分析の双方を取り入れながら、リサーチが進められています。彼女によるステートメントを一部引用しましょう。
『MEMEDress』の頑丈なブロンズトルソーは「自分」もしくは「女性像」を意味し、ファブリックと綿を使って膨らませたドレスは、虚像と華やかさを象徴する。これは依然として、その中心の世界は「自分」によるということを示すものであり、重いブロンズの女性像が空間の重みを司り、存在感をあらわす。また、漆黒の如く黒いファブリックで作られたドレスは、他人の目にとまりたくないという気持ちと同時に、興味を持ってほしいという両極端な内面の心理を見せてくれる。
『MEME Dress』はジェンダーを取り払い、自伝的な経験と心理分析を基に制作された。これを通し社会的な視線から完全に自由ではないが、自分を失わない抵抗的な試み、和解、そして治癒の過程を表現しようとする。
会場内に鎮座する、「美的な装い」の集合体としてのドレスはもはや従来のドレスの力能を超えて、この社会で生き抜いていくための防具、宗教、呪物のようにすら見えてきます。韓国の社会状況を受けながら強固な彫刻として提示される作品は、現在のアジアをめぐる「視線」の問題を強く表出しています。また、展示タイトルに付された「ME; me」は英語での「ミーム(meme)」を想起させます。まるで遺伝子のように情報や視線が波及し、緩やかに変革しながら私たちの情動的なレベルでの内的規範に働きかけるその「ミーム」としての性質を、本作も有しているとすれば、それは外見至上主義の現在におけるささやかな反旗——異常分裂、突然変異——になりうるでしょう。
テキスト:waxogawa
Artist
Jeunne Lee
韓国、ソウル生まれ。ソウル国民大学美術学部彫刻科卒業、東京藝術大学美術研究科グローバルアートプラクティス専攻修士課程修了。独自の視点で、人の身体や他者との関わりをテーマに作品を制作している。自身を取り巻く社会問題を作品制作の出発点とし、ダイナミックな彫刻を主な表現媒体としながら、ドローイング、ビデオ、インスタレーションなど多岐に活動している。
Events
- ended2023.7.9 07:00 _ 2023.7.9 12:00
"ME; me" Opening Reception
"ME; me"のオープニングレセプションを開催します。 予約不要でどなたでもお越しいただけます。 東京都中央区日本橋馬喰町2-2-14 maruka 3F